| +Eve's Story+ |
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「明日予定はあるか?」 「へっ?」 俺は少々焦っていた…と思う。 なぜなら、今から俺は生まれて初めて『デート』の申し込みをしようとしているからだ。 それなのに、当の本人は何を聞かれたのか分かっていない様子だ。 「だから明日の予定だ。」 俺はもう一度だけ言ってやる。 「明日って24日だよな?」 確認をしてくるので、無言で頷く。 「明日はえっと、18時まで仕事だけど…、どうかしたのか?」 お前が俺の予定を聞くなんて珍しい、などと言いながら少し目を開いて驚いている様子だ。 そんな姿をかわいいと思いながら、俺は早速約束を取り付ける。 「では18時以降は空いているのか?」 「ああ、特に予定はないぜ。」 「そうか。ならば明日18時にここに迎えに来る。いいな?」 それだけ言うと、俺は早速明日の準備に取り掛かる為にその場を後にした。 「えっ!おいちょっ…待てよヒイロッ!!」 デュオが何か叫んでいる気がするが、俺はあまりの嬉しさに心の中で小躍りしていて聞こえなかった。 「行っちまった…。何だったんだアイツ。まっいっか。」 デュオは気を取り直して仕事に戻って行った。 ヒイロが去り際に小さくガッツポーズを決めたのを知らないまま………。 12月24日18時。 俺はこの日の為に万全の体勢を整えてきた。 昨日あの後、本屋に寄り『クリスマスに彼女と過ごすオシャレなデートスポット』や 『クリスマスディナー特集』、『恋人達の聖なる夜』など、様々な雑誌を一通り立ち読みして知識を身につけた。 そしてそこで見つけたお洒落で、ロマンチックで、尚且つ夜景が綺麗なレストランを予約した。 しかも、デュオが変に気を使わないように、高級レストランのように正装をする所は止めておいた。 さりげない気遣いもバッチリだ! 「ヒイロ、待たせたか?」 デートのシミュレーションをしているとデュオがやって来た。 今日の格好は黒のタートルにGパン、それに黒のコートだ。 なかなか良く似合っている、デートにはもってこいの格好だ。 「いや、今来たところだ。行くぞ。」 本当は20分前から来ていたが、舞い上がっていることがバレそうなので言うのをやめた。 「なぁ、どこ行くんだ?」 「レストランを予約してある。ここから歩いて10分くらいの所だ。」 「何?飯おごってくれんの?ラッキー♪」 どうやらご飯をおごってもらえることが嬉しいらしい。 無邪気に喜ぶデュオはとても可愛い。 本来なら会ったと同時に花束を渡そうと思っていたのだがそれは、 『彼女に引かれる20の行動』という本の8番目に書かれていたのでやめておいた。 「なんかさ〜やたらとカップル目立つよな〜。」 「クリスマス・イブだからだろう。」 「あっ、そっか。成るほどな〜。」 納得したらしい。 それよりもさり気なく『クリスマス』を強調したのだが、気づいてくれただろうか? デュオは周りをキョロキョロしながら俺の後に付いて来る。 そんな姿も可愛いと思いながら歩いていると店に着いた。 店の雰囲気はかなりいいし、出てくる料理もそれなりにおいしい。 当たり前だ、俺が選んだんだからな。 初めてのデートは心に残る様な思い出深いものにしたい。 デュオとはまだ友達以上恋人未満の関係だ。(デュオがそう思っているかは不明) 今日、ディナーのラスト辺りでプレゼントを渡し、愛の告白をする。 クリスマスにロマンチックに告白し、晴れて恋人同士になり、甘〜い夜を過ごしたい!! 告白してOKをもらうには、夜の方が確立が高く、プレゼントを渡した後の方が成功率が高いと 『愛の告白マニュアル』や、『絶対上手くいく告白術』などに書いてあった。 そうプレゼント。 …………しまった。 俺としたことが、デートの約束を取り付けたことに浮かれすぎていて、プレゼントを買うのを忘れたーっ! 完璧にシミュレートしたまではいいが、一世一代の大舞台になんて大失敗をしてしまったんだーー!!! 俺のミスだーー!! あれだけプレゼントは、クリスマスの恋人達の一大イベントで重要だと 『クリスマスプレゼント特集』に書いてあったではないか。 しかも『これで僕は彼女に振られた』と言う本に、 プレゼントを渡さない男はダントツで振られると書いてあった……。 ここは重要だからと何度も読み返して、心のページに蛍光ペンでラインまで引いたのに。 やばい、落ち着け、冷静になれ! いや、至って俺は冷静だ。 そうだ、『失敗したときの対処法あれこれ』と言う本にプレゼントを買えなかった時は、 夜景をプレゼント代わりにすると成功率が上がると書いてあったはずだ。 よし、告白は食事を済ませてからに変更だ。 まだ大丈夫だ。 こういうときの為にツリーの綺麗なスポットを『夜景穴場スポット』で調べておいてよかった。 少々予定は狂ったが何とか持ち直せそうだ。 落ち着いてきたところで改めてデュオを見やると、少し落ち着かない様子だ。 「どうした?料理が口に合わないか?」 まさか俺の態度に気づいたか? 「いや、料理は上手いよ。それにいい店だし。」 辺りを見回しながらデュオが言う。 「お前がレストランて言ってたからファミレスみたいなの想像してたんだよ。」 だからちょっと緊張しちゃってと、少しはにかみ笑いで言うデュオがまたかわいらしい。 「そうか。」 「ああ、それにお前とこんなとこで食事してるってのも驚きだよな!」 「どういう意味だ?」 「だって、どっちかっていうとお前俺のこと嫌いだろ?普段話しかけても軽く無視だし。 だから誘ってくれたのは嬉しいけど、何かあるのかなって思わない方がおかしいだろ?」 ショックだ……。 デュオは俺に嫌われてると思っているらしい。 確かにデュオの前では緊張してあまり上手く話せないでいる。 それが嫌っている様に見えていたということか…。 そんな誤解をされているとは。 こんなことならもっと早く『巧みな会話術』や『緊張しないで話せるマル秘テクニック』とかいう本を 読んでおくんだった。 このままでは付き合うどころか、告白さえ出来ないではないか! 今こそ誤解を解けヒイロ・ユイ! 任務了解した! 「違うっ!」 「うわっ、いきなり大声出すなよ!びっくりしたじゃん!」 「すまない。デュオ…聞いてくれ、俺はお前を嫌ってなどいない。」 「えっ?」 「俺はお前のことをその…特別だと思っている!」 よし言えたぞ!このさりげない告白を解ってくれるかデュオ!! 「特別って…、ヒイロお前……。」 デュオと心の中で呼びながら、見つめ合う二人。 いい雰囲気だ、『大人のクリスマス』という本に載っていたパターンそのままだ。 いよいよ返事が聞ける。 ドキドキドキドキ……。 「ちゃんと俺のこと親友だって思ってくれてたんだな。嬉しいぜ!」 ガクッ。 違うだろっデュオッ!!と軽く心の突っ込みを入れてしまう自分が悲しい…。 「今まで誤解してて悪かったな。これからもよろしく頼むぜ相棒!」 俺に嫌われていないと解って嬉しいのかデュオは嬉しそうにデザートを食べている。 もう一度ここで告白し直した方がいいのか……。 いや駄目だ、この後ツリーを見に行ってからでないと。 ツリーの下で愛の告白、なんてロマンチックなんだ。 ここは嫌われていないことがわかっただけでも良しとするべきだ。 そうと決まれば次の任務を遂行する! 食事もデザートも終わり店を出た。 「あ〜うまかった。ごちそうさまでした。」 「ああ。」 「んじゃ、飯も食ったし帰るとしますか。」 寒いのか手を擦り合わせながらデュオが言う。 おいおい、ここで帰ってもらっては困る、非常〜に困る。 まだ本日最大のメインイベントが残っている。 これじゃあ何の為に今日誘ったのか解らないではないか! 「デュオ、もう少し付き合ってくれ。」 俺はツリー目指して歩き出す、するとデュオも後から付いて来た。 よし、あと一息だ。 ツリーの辺りまでくると流石に人が多い。 ツリーの下で愛の告白は少し無理そうなので、予定を変えて人気のまだ少ない端の方に移動する。 「クリスマスツリーか〜キレイだな。」 少し離れた所からツリーを見てデュオが言う。 「お前の方が……」 「俺が何?」 「いや、何でもない。」 危なかった………。 ツリーよりもお前の方が綺麗だ、と思わず言いそうになってしまった。 咄嗟に『彼女に引かれる20の行動』という本の14番目に書かれていたことを思い出した。 今のセリフも引かれるらしい。 ちなみに、「君の瞳に乾杯」も駄目らしい。 これはお酒を飲まなかったから使ってはいないが、なぜ駄目なのかが俺にはよくわからない。 本によると、「寒い」らしい……。 いやこの際そんなことはどうでもいい。 先程から失敗の連続だ。 このままではますますロマンチックが遠のいていく。 ここは早急に告白するべきだ! 今こそ告白しろヒイロ・ユイ! 任務了解! 深呼吸をして、気持ちを落ち着け、覚悟を決めて話かけた。 「デュオ。話がある。」 「ん、何?」 「今日お前を誘ったのは………お前のことが……す」 好きなんだ、と続くはずの言葉がデュオによって遮られた。 「分かってるって。今日誘ってくれたのは明日の予行演習だろ?」 「は?」 今デュオは何と言った? 「予行演習?」 「そうそう、だって明日お嬢さんとデートだろ?だからさ〜本番前に俺を下見に誘ったってとこだろ? まぁ、一人で来るよりは断然いいもんな!お前にしちゃぁいい店選んでると思うぜ!」 でもお嬢さんにはもうちょっと、とかなんとかデュオの話は続いている……… オーマイゴッド! なんてことだ!よりにもよって下見だと? それになぜそこでリリーナの名前が出てくるんだ? 「結構楽しかったし、気にしてないぜ!」 おごってもらったしな、とデュオが笑いながら言ってくるが、俺は笑えない。 「デュオ、話を最後まで聞いてくれ。今日お前を誘ったのは予行演習の為じゃない。お前と来たかったからだ!」 「ヒイロ?」 「お前のことが好きだ…。だから一緒にクリスマス・イブを過ごしたかった。」 俺は一気に思いを告げた。嗚呼…ロマンチックが崩れていく……。 「嘘……。」 「嘘じゃない、本当だ。…信じてくれデュオ!」 「…だって、お前そんな素振り見せなかったじゃねぇか?」 「それは……。」 「それは?」 「緊張していたからだ!!」(ドドーン!) 「は?」 「どうも俺は好きな人の前だと、緊張してうまく話せないらしい。」 「らしいって……おい、…それじゃ俺の事が好きってのは…本当なのか?」 「ああ。」 どうやら納得してくれたみたいだ、デュオの顔が見る見る赤くなっていくのが分かる。 「デュオ、お前は俺のことをどう思っている?好きか嫌いかはっきり聞かせてくれ。」 俺はデュオに返事を迫る。 ……が、今気づいたことがある…。 振られた場合はどうしたらいいんだ? 付き合うことを前提にシミュレートしてきたが、振られた時のことは考えていなかった。 こういうときの対処法が載っている雑誌や本を読んでいない。 どうしたらいいんだ!教えてくれゼロ!! 「ヒイロ…。俺お前のこと好きだよ。…でも恋愛感情は?って聞かれたら正直わからない。」 「では、嫌いではないんだな?」 「ああ、お前の気持ちは嬉しいし、嫌いじゃない。」 神様ありがとう!俺は今感動している! 「なら、これから付き合って知っていけばいい。俺ももっとお前のことを知りたいからな。」 「そうだな、お互いを知ることは大事だよな!んじゃまあよろしくな!」 デュオが少し照れながら笑いかけてくれる。 「ああ。」 俺はデュオを抱きしめようと手を伸ばした。 それをひらりとかわしてデュオが振り向いた。 「なあ、寒いからどっかで暖かいの飲もうぜ!」 デュオ……、今のはわざとなのか!なぁ、わざとなのかぁっ!! 「ヒイロ聞いてる?」 「あ、ああ。」 「じゃ行こうぜ。」 デュオが通りに見える喫茶店に向かって歩いていく。 まあいい、とりあえず第一関門は突破した。 これから焦らずじっくりゆっくりまったり進んで行けばいい。 これから来るであろう幸せな未来を夢見て、俺はデュオの後を追った。 あとがき |